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悪意の遺棄とは?

「夫が生活費を渡してくれない」「専業主婦なのに家事をしない」「配偶者が家を出て、不倫相手と一緒に部屋を借りてしまった」などの事情があれば、悪意の遺棄として離婚が認められ、慰謝料を請求できるかもしれません。今回は、悪意の遺棄とは何か、その具体的な内容を解説します。

 

夫婦には法律上、3つの決められた義務がある

民法では「夫婦は同居し、お互いに協力、扶助し合わなければならない」と定めています。つまり夫婦は互いに(1)同居義務、(2)協力義務、(3)扶助義務を負っているといえます。

 

(1)同居義務とは

夫婦が一緒に同居して生活をともにすることを同居義務と言います。病気や療養のために別居している場合や仕事の都合で単身赴任している場合などは同居義務違反とはいえません。また、夫婦関係を修復するため、互いの同意のもとに別居をしているケースも同様に同居義務違反とはなりません。

 

一方、夫婦の一方が勝手に家族を無視して別居している場合、また夫婦の一方が他方を追い出して家に入れない場合などは同居義務違反が問題となります。

同居義務違反となる同居義務違反とはならない
  • 理由も無いのに同居を拒否する
  • 家出を繰り返す
  • 夫が理由も無いのにアパートを借りて暮らしている
  • 愛人宅にいりびたって帰ってこない
  • 妻の不貞を疑った夫が妻を追い出し、同居に応じない、など、家族を顧みず、自分勝手に家を出た場合や正当な理由もなく追い出した場合は同居義務違反が問題となる
  • 仕事上の出張、転勤による単身赴任による別居
  • うまくいかなくなった夫婦関係を調整するための冷却期間を置く別居
  • 子どもの教育上必要な別居
  • 病気治療のための別居
  • 配偶者の暴力や酒乱を避けるために家を出た場合、など、正当な理由があると認められる別居は同居義務違反にはならない

別居が同居義務違反とはならない場合:別居の理由が出稼ぎや単身赴任、子どもの学校関係や配偶者の暴力、同居中の義理の父母との不和など正当な理由があれば、別居していても同居義務違反とはなりません。

 

(2)協力義務とは

夫婦が互いに協力し合って婚姻生活を支え合う義務のことです。例えば、専業主婦(夫)なのに、家事や育児を一切しない、家族を顧みずに遊びまくっているなどの場合は協力義務違反が問題となります。

 

ただし、単に協力をしないというだけでは悪意の遺棄とはいえず、相手が困るとわかっていてわざと行うなどの悪意があることが必要です。なお、協力の在り方は夫婦の同居や扶助の態様と密接に関連しているため、協力義務違反だけが単独で問題とされることは少ないといえます。

 

(3)扶助義務とは

配偶者を経済的に養い補助する義務のことです。相手が困窮するのを知っていながら、生活費を渡さないなど、生活費を渡せる資力があるのに、相手を困らせる意図をもって生活費などを渡さない行為は、扶助義務違反として問題となります。

 

また、健康なのに働かず生活を支えてくれない場合も、扶助義務違反となります。さらに、病気で看護が必要な配偶者を放置した場合や生活費を送る約束で別居したにも関わらず生活費を送ってこない場合にも、扶助義務違反といえます。一方、病気や失業などで生活費を渡したくても渡せない事情がある場合は、扶助義務に違反しているとは言えません。

 

これら3つの義務に不当に違反し、相手に苦痛を与えることが「悪意の遺棄」です。

 

判例が認めた悪意の遺棄とは

裁判で悪意の遺棄が認められるのは下記のケースのように倫理的・社会的に非難される行為に対してです。つまり、積極的に婚姻関係を破たんさせる意思、もしくはそうなっても仕方がないと容認する意思があることが必要です。

 

(1)障がいのある妻を自宅に放置したケース

脳血栓のため半身不随になった妻を夫は十分に看護もせず、突然離婚を切り出して家をでていき、長期間別居を続け、その間生活費を一切送らなかったケースで、夫の行為は「悪意の遺棄」に該当すると判断されました。(浦和地方裁判所昭和59年9月19日判決)

 

(2)生まれたばかりの子と妻を置き去りにしたケース

妻が夫に多額の援助をしてきたにもかかわらず、夫が生まれたばかりの子供と妻を置いて家を出て、その後夫側から離婚調停の申立てをした上、調停で決まった生活費の支払いを怠ったケースでは、悪意の遺棄を認め、慰謝料300万円の支払いが命じられました(東京地裁平成21年4月27日判決)。

 

(3)突然消息不明となったケース

夫が突然、家を飛び出し消息不明となったまま生活費の送金もしないケースでは、正当な理由なく妻との同居義務及び協力扶助義務を尽くさないことが明らかであるとして悪意の遺棄が認められました(名古屋地判昭和49年10月1日判決)。

 

なお、悪意の遺棄とまでは認められなくても、同居義務・協力義務・扶助義務に違反する行為は「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。

 

実際、夫が仕事のためとはいえ、あまりに多い出張、外泊により家庭を顧みなかったケースで、裁判所は悪意の遺棄に該当するとまではいえないが、婚姻を継続しがたい重大な事由に該当するとして離婚を認める判決を下しています。

 

裁判で悪意の遺棄を主張するための証拠収集

裁判で悪意の遺棄が認められれば、離婚だけでなく、事案によっては慰謝料の請求が認められる場合があります。そのために、日ごろから悪意の遺棄と主張できるだけの証拠を集めておくことが大切です。証拠となり得るものとしては下記のものがあります。

 

(1)別居していることを証明する資料

  • 住民票
  • 賃貸借契約書

など

 

(2)正当な理由もなく別居をしていることを証明する資料

  • 同居を拒む会話を録音したもの
  • 勝手に家を出たことを証明する手紙やメモ、LINEやメール

など

 

(3)生活費の支払いをしないことを証明する資料

  • 通帳の入金記録
  • 家計簿

など

 

(4)協力義務違反を証明する資料

  • 家事を一切していないことがわかる写真や動画
  • 生活状況を記載した日記やメモ
  • 第3者の証言

など

 

別居をすると悪意の遺棄として離婚が認められてしまうか

離婚前に、あるいは関係修復のために一定期間別居する夫婦は少なくはありません。しかし、別居が「同居義務違反」となれば、悪意の遺棄もしくは婚姻を継続しがたい事由として、離婚の際に不利に働いたり、または関係修復のための冷却期間としての別居によって離婚を主張される危険性もあります。

 

(1)別居が離婚原因となってしまう場合

別居が、離婚原因となり、離婚が認められるには、別居状態が一定期間継続する必要があります。期間については決まった基準はありませんが、過去の裁判例で、わずか2ヶ月間で、「悪意の遺棄」に当たるとしたものがあります。そのため、別居期間が長期化すればそれだけ同居義務違反として離婚が認められる可能性が高くなるといえます。

 

ただし、実際の裁判では、単に別居機関の長短だけでなく、別居にいたった経過や別居期間中のさまざまな事情、夫婦間の愛情、離婚意思の有無等の事情が総合的に考慮されることになりますので、関係修復のための別居では、離婚意思がないことを証明するためにも、別居合意書を作成する等、不利益を被らないための対策を立てておく必要があります。

 

(2)そうならないための注意点について紹介

配偶者の暴力や暴言などのDVや不倫などが原因で離婚を前提に別居する場合や夫婦関係の修復のための冷却期間として別居する場合は、「悪意の遺棄」と言われないためにも、相手の合意を得て別居をし、別居に際しては別居合意書を作成するようにしましょう。

 

相手が同意しないからといって強行に別居を行うことは、離婚に不利に働く可能性がありますので避けた方がよいといえます。また、別居後は、生活費の送金を怠らないようにし、連絡先もきっちり相手に伝えておくようにしましょう。

 

なお、別居合意書には、別居に至った経緯や別居中の婚姻費用の支払い、別居期間、子どもとの面会交流などについて記載します。

 

(3)別居期間中でも生活費は請求できる?

夫婦には配偶者を養い補助する「扶助義務」があり、別居期間中であっても例外ではありません。例え、離婚を前提とした別居であっても夫婦であることに変わりはありませんから、この扶助義務を免れることはできません。

 

したがって、夫婦の一方に収入がなかったり、収入が低かったりする場合は、収入の高い方に生活費の支払いを要求することができます。支払われる金額については夫婦間の話し合いで決めることになりますが、話し合いができない、あるいは話し合いができても支払ってくれない場合には、家庭裁判所へ「婚姻費用の分担調停」を申立てることができます。

 

ここでいう婚姻費用には、衣食住の費用、交際費、娯楽費、医療費のほか、未成年の子がいればその子の養育費や教育費も含まれます。金額については夫婦の収入や生活態様など個々の家庭で異なりますが、婚姻費用の分担調停では家庭裁判所が独自に作成した算定表(養育費・婚姻費用算定表)に基づいて婚姻費用の金額が決められています。算定表は家庭裁判所のホームページに掲載されていますので、チェックしてみてください。

 

なお、別居中に婚姻費用が支払われなかった場合は、離婚時の財産分与のときに未払い分の婚姻費用も含めて請求することができます。

 

まとめ

悪意の遺棄が認められるケースでは、慰謝料を請求できる可能性があります。そのため、より高額な慰謝料を請求するためにも、離婚問題に精通した弁護士からサポートを受けるメリットは大きいといえます。

 

また慰謝料の請求を検討されている場合は、法律の専門家である弁護士の助言を得ながら証拠を収集するのがベターです。配偶者に同居義務や協力義務、扶助義務に違反する行為があれば、ぜひ当事務所にご相談ください。

弁護士法人川原総合法律事務所 所長弁護士 川原 俊明
 監修:弁護士法人川原総合法律事務所 所長弁護士 川原 俊明
私立追手門学院高校、早稲田大学法学部卒業後、司法試験合格を経て、宮﨑綜合法律事務所に所属、1981年に川原俊明法律事務所を設立(現:弁護士法人川原総合法律事務所)
温和な風貌からは想像できない情熱的な事件処理と、40年を超える弁護士実績で、生涯現役を貫く。弁護士業の傍ら、追手門学院大学理事長学校法人追手門学院大学の学長も兼ねる。

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